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レポート

ケンブリッジ大学報告書-「相互扶助のマイクロインシュランスは脆弱な地域社会の自然災害からの復興に高い回復力を与える」

 

ケンブリッジ大学サステナビリティ・リーダーシップ研究所(CISL)による新しい研究は、コミュニティ所有の保険モデルである相互扶助のマイクロインシュランスが、自然災害後の低所得世帯の回復にどのように貢献するかについて初の分析を加えました。この報告書は、国連持続可能な開発目標(SDGs)の観点から相互扶助のマイクロインシュランスについて調査していますが、加入世帯の方が非加入世帯よりも高い回復力があることを示しています。

開発途上国および新興経済国の多くでは、相互扶助の保険組織は法的に認められておらず、相互扶助組織が最適に機能して保険商品を最も必要としている人々を支える能力を阻害しています。相互扶助の保険セクターは世界の保険市場の27%を占めており、市場全体の中で最も急成長しているセクターである(出典:ICMIF グローバル・ミューチャル・マーケットシェア10)という事実にもかかわらず、ビジネスモデルとしての相互扶助のマイクロインシュランスの可能性と、個人・家族・地域社会の状況の改善において果たす価値に関しての独立した研究はほとんどありませんでした。

ケンブリッジ大学サステナビリティ・リーダーシップ研究所(CISL)による報告書「相互扶助のマイクロインシュランスと持続可能な開発目標 - 台風ハイヤン後の影響評価」は、世界最大の相互扶助のマイクロインシュランス・プロバイダーであるCARD MBA(フィリピン、ICMIF会員)の事業運営を評価しました。50万人ものCARD MBA会員が、2013年にフィリピンを襲った台風ハイヤンによる壊滅的な打撃を受けました。

報告書では、相互扶助のマイクロインシュランスに加入していた世帯を含む160世帯の台風後の復旧結果を分析しました。それによると、相互扶助のマイクロインシュランス・プロバイダーが提供する生命保険によって保障されていた世帯の方が、そうでない世帯よりも復旧状況は良好でした。

この報告書の発表について、国際協同組合保険連合(ICMIF)の新興市場担当シニア・ヴァイスプレジデントであるサビエ・パテル(Sabbir Patel)氏は次のように述べています。「CISLの報告書は、相互扶助のマイクロインシュランスがSDGsの達成に独自の役割を果たしていることを示しています。相互扶助の組織は、単に保険を提供するだけではなく、自らの設立理由である人々への奉仕のために全体的なリスク管理アプローチを採ることにおいて、数世紀にもわたり先駆的でありました。ICMIF 5-5-5相互扶助のマイクロインシュランス戦略は、フィリピンでCARD MBAが達成した賞賛に値する成功を再現できるように、他の相互扶助のマイクロインシュランス組織を支援する方法の一つです。」

ベルギーの協同組合保険会社P&Vの執行委員会のメンバーでありICMIF開発委員会の委員長も務めるフィリップ・デロングヴィル(Philippe de Longueville)氏は、この報告書への支持を付け加えつつ次のように述べています。「CISLによるこの重要な仕事をサポートでき誇りに思います。また、報告書中におけるケーススタディとして参加し、情報提供と協力を惜しまなかったCARD MBAに感謝します。この報告書は、相互扶助のマイクロインシュランスが、自然災害の前後で低所得コミュニティにおける回復力の構築において重要な役割を果たすことを確証しています。我われは、そのようなスキームの影響力を拡大し、他の国・地域においても包摂的で可能性ある環境を同様に構築する方法を探求するため、さらなる対話を歓迎します。」

ICMIFのショーン・ターバック(Shaun Tarbuck)事務局長は次のように述べています。「この報告書は、相互扶助保険が商業的保険会社と共に繁栄できるような包括的アプローチを立法制度が採用するべきであるというICMIFの信念を固いものにしてくれます。フィリピンのケーススタディは、これがどのように達成されるか、そしていかに経済発展や貧困削減、そして貧しい人たちのための災害復旧における保険部門の影響力の向上につながるかを示唆してくれます。」

CISLの持続可能経済担当理事であるジェイク・レイノルズ(Jake Reynolds)氏は次のように述べています。「この研究のメッセージのように、気候変動に備え適応し回復力を備えることが喫緊の課題です。相互扶助のマイクロインシュランスの規制を取り巻く不確実性が取り除かれるまで、政府、ドナー、国際機関による介入の範囲、規模、有効性は引き続き阻害され続けるでしょう。SDGsの達成をどのように促進できるか理解するためには、保険者や政策立案者はこの分野をさらに調査する必要があります。」

調査結果に基づき、CISLは次の3項目の提言を行ないます。

  • 各国政府は、国内および国際的なSDGsの目標達成に向け、新興国市場の脆弱なあるいは低所得層の人びとを守るための包摂的保険に関する政策について、整合をとるべく努力する必要がある。
  • 規制当局は、低所得層コミュニティのための効果的な相互扶助保険へのアクセスを、包摂的保険の中において明確な実体として含め、それを気候変動への回復力を高めるためのより広い介入の選択肢に加える必要がある。
  • 保険セクター(相互扶助および非相互扶助)は、低所得者層に対してより良いものを提供し、コミュニティや規制当局と協力して個々の国のニーズを理解し形作る必要がある。

ケーススタディ(例)

台風ハイヤンの風速は時速200マイル(320km)と、過去記録されたなかで最も強大なサイクロンでした。フィリピンを襲い、6,000人以上の人びとが亡くなり、190万人が家を失い、600万人が避難を余儀なくされました。

タクロバン市のBarangay Salazarに住むパキト・サビド(Paquito Sabido)氏がこの研究に参加しました。2013年に彼はこの台風によって気絶してしまい、意識を取り戻した時には妻と子供たちはいなくなっていました。その2日後、建物の2階に避難している子供たちを見つけましたが、妻は生きて戻ることはありませんでした。妻の相互扶助の生命保険契約によって、サビド氏は自分のビジネスを復旧させ、家を建て直すための追加資金を調達することができました。

台風ハイヤンの荒廃後の各世帯の復旧結果が、保険の存在によってポジティブな影響を受けたという全体的な調査結果の中で、相互扶助には独自の特性があることも認められました。

相互扶助組織の会員は、台風後における援助プログラム、ローンの支払猶予、財務的アドバイスを通じて、彼ら自身の幸せが優先されていると感じていました。しっかり確立されたコミュニティのネットワークによりお互いの状況をチェックし合い、会員に緊急援助物資を分配し、非常な試練ともいえる環境下で保険金の承認手続と支払い処理を非常に効率的に行いました。

保険者であるCARD MBAは、2,000万人の生命を保障していますが、その35%が貧困ライン以下の生活を送っています。相互扶助の保険組織は世界の保険業界の27%を占めており、コミュニティ所有モデルという特性を有していますが、会員により所有されていることから低所得の脆弱な顧客を保護するためには特定の規制上のサポートが必要です。

当報告書は、シンガポールで開催された国際保険学会(IIS)グローバル・フォーラムにおいて2019年6月21日(金)に発表された「台風ハイヤン(2013年):経済と社会の再建に保険が果たす役割-その教訓とは?」と題したセッションで発表されたものです。

報告書の主な調査結果

  • 保険が果たす機能とその結果がSDGsの目標達成と初めて関連付けられ、可能な範囲で保険関連の測定基準および指標と整合されました。我われは相互扶助のマイクロインシュランスが10のSDGs目標に貢献する(CARD MBAによる)ことを文書化しました。
  • フィリピンにおける支援的な法律・規制の環境は、過去20年間にわたるマイクロインシュランス部門の発展にとって重要なものでした。
  • CARD MBAの相互扶助のマイクロインシュランスの成功は、会員所有、信頼構築、商品開発、販売網、保険金支払承認、ガバナンス、女性の地位向上、財務リスク管理の教育、連帯といった各要素において、CARDグループのマイクロファイナンス業務および地域社会の関与と複雑に絡み合っています。
  • 台風ハイヤン後のコミュニティの復旧に対する相互扶助のマイクロインシュランスの影響は、保険と信用および緊急援助の相互依存を示しています。

当報告書は、CISLフェローのアナ・ゴンザレス-ペレス(Ana Gonzalez-Pelaez)博士が主導して作成され、RIMANSIが国際協同組合保険連合(ICMIF)の支援を受けて現地調査を実施しました。

 

ICMIFサイトの英語ニュース記事(以下にリンクを表示)を許可を得て翻訳・転載しています。
記事日付 2019.6.21

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