社会と企業にとって新型コロナウィルス後の「ニューノーマル」はどのようなものでしょうか? マッキンゼーなど多くのコメンテーターは、株主価値によって動かされる経済から、はるかに幅広いステークホルダー価値によって動かされる経済への転換が必要であると述べています。「トリプルボトムライン」(利益、人、地球)という言葉は、2008年の世界金融危機後に一般的に使われてから10年近くを経て復活しました。
すでにステークホルダーの視野を持ち、目的主導で持続可能性に関する事業計画を持っている世界の組織は、パンデミックの間も大切な役割を果たしつつビジネスとしてより良い結果を出しています。そして、私たちが「より良く復興」する際に、それらの組織は引き続き重要な役割を果たすでしょう。これらの組織は、新型コロナウィルスのパンデミックがもたらす課題に対して高い弾力性を持ち、対応がより機敏であり、私たちが今後避けられない世界的不況から抜け出したとき、リーダーとなる可能性が最も高いと言えます。
持続可能性がステークホルダー価値の中核に
中核的なステークホルダー価値は、「ビジネスの持続可能性(利益)」、「顧客・スタッフ・地域社会(人)」、「社会の改善(地球)」の3つです。「持続可能性」という用語は、多くの人々にとって多様な意味を持つ可能性がありますが、「トリプルボトムライン」という用語は、ビジネスの成功と持続可能性のための全ての重要な推進要素を伝えてくれます。
多くのICMIF会員組織は、長年にわたって持続可能な道のりを歩んでいます。実際のところ、私がICMIFに加わった25年前において、持続可能性は重要なトピックでした。そして、それは長年にわたりICMIFのリーダーシップ会議において勢いをつけてきました。例えば、2009年のICMIF総会の主要なトピックには、次のものが含まれていました。
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- 保険事業に対する気候変動の影響
- 環境リスクの管理に積極的な役割を果たす協同組合/相互扶助の保険会社
- 投資方針における企業責任のビジネスケース
- 協同組合/相互扶助の保険会社のための持続可能性の枠組み
- 持続可能性を企業戦略の中心に位置付ける
- 優秀なスタッフを維持し引きつけるツールとしてのCSR(企業の社会的責任)
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これらはその当時非常に関連性の高いトピックでしたが、現在ではなおさらです。現在が異なるのは、全世界がこれらの領域に注目していることです。これらは、協同組合/相互扶助セクターにとって独自の差別化要因であった領域です。
持続可能性の勢い
すべての国が署名した2015年の世界的な合意によって、国連は持続可能性のアジェンダを実際に後押ししました。仙台防災枠組、持続可能な開発目標(SDGs)、パリ協定は、総称して国連2030アジェンダとして知られています。
2020年現在、世論がこの社会の変化に強く賛成している事実により、ビジネスと政治がともに持続可能性アジェンダを徐々に支持するようになりつつあります。さらに、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、世界中の不平等が非常に顕著に強調されています。その結果、私たち協同組合/相互扶助の差別化要因であったものが、今やすべての人に受け入れられています。グローバルな問題が小さなグループによって解決されることは決してないため、それは良いことだと思います。解決策を見つけるにはリーダーシップが必要ですが、達成するには幅広い協調が必要です。
持続可能なリーダーシップ
国連2030アジェンダの最初の5年間で、持続可能性に携わるあらゆるリーダーが官民および相互扶助のパートナーシップで互いに知り合い、かつて存在していた垣根を取り払ってきました。ICMIFが創設メンバーとなった保険開発フォーラム(IDF)や、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、InsuResilience、World Benchmarking Alliance、Climate Action 100+、責任投資原則(PRI)と国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)が共同招集したネットゼロ資産保有者アライアンス(Net-Zero Asset Owner Alliance)、 そして、持続可能な保険のためのUNEP FI原則を通じた保険SDG(iSDGs)など、多くの素晴らしい取り組みがこの時期に始まりました。
アクメア(オランダ)、デジャルダン・グループ(カナダ)、フォルクサム(スウェーデン)、レンスフォーシェクリンガー(スウェーデン)、MAIF(フランス)、 ロイヤル・ロンドン(イギリス)、サンコール保険グループ(アルゼンチン)、セキュリアン・フィナンシャル・グループ(アメリカ)、コーポレーターズ(カナダ)、ウニポール・グループ(イタリア)など多くのICMIF会員組織が、これらの取り組みに参加しています。これからの10年は「持続可能性の10年」と呼ばれ、その成功は、組織としてお互いを知ることから、いかにして実践と共同による結果達成に移行していくかにより評価されるでしょう。
持続可能性の課題
現在の課題は、何をすべきかではなく、誰とそれを行うかです。どの取り組みに関与すべきかをどのようにして知るのでしょうか? いまや非常に多くの取り組みがあります。昨年、ICMIFは3つの重要なパートナーシップ協定に署名しました。最初の協定は、主にインクルーシブ(包摂的)保険の分野でSDGsの達成に向けて取り組んでいる「国連開発計画(UNDP)」とのものです。次に私たちは、仙台防災枠組の中で保障から予防に移行するため、「国連防災機関(UNDRR)」と提携しました。3番目は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の実践に向け取り組む「英国皇太子の持続可能な会計プロジェクト(A4S)」との提携です。3つのパートナーシップはすべて順調に進んでおり、各組織のリーダーの方には、最近ICMIFゲストブログに寄稿していただいております。ICMIF会員がこの新たな「持続可能性の世界」の複雑性を理解できるように、現在のすべての主要な取り組みがわかる「持続可能性マップ」を作成しており、まもなく会員に提供される予定です。
持続可能な開発目標(SDGs)
保険団体として、私たちは事業の資産と負債の両面からSDGsに影響を与えることができます。そして私は、私たちが両面から関与する必要があると考えています。ICMIF会員が報告しているSDGsの目標に関する最近の調査の結果、11の会員組織が、目標 3から目標 13までの14個の目標について報告をしており、その多くが戦略的な成果として扱っていることがわかりました。
ICMIF会員組織の中で最も人気のある持続可能な開発目標は、目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標 8「働きがいも経済成長も」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、そして目標13「気候変動に具体的な対策を」です。これは、保険SDGs(iSDGs)について検討した国連持続可能な保険原則(PSI)とスイス・リー(Swiss Re)による調査結果に基づいて最近発表された、上位5つのSDGsとぴったりと整合しています。保険SDGsは、私たちがすでに関与している取り組みであり、業界全体としてのベンチマークを設定するものです。
SDGsの達成をサポートするもう1つの新しい取り組みは、フォルクサムおよびICMIF協賛会員のアビバ・インベスターズとスイス・リーが昨年創設メンバーとなった「ネットゼロ資産保有者アライアンス」です。これは、2050年までに投資ポートフォリオを温室効果ガス排出量ネットゼロに移行させることを目指していますが、フォルクサムでは2030年の達成を目指しています。
共に強くなろう
多くのICMIF会員組織はだいぶ以前から持続可能性の旅を始めていますが、今こそ、影響力のあるパートナーシップ(これは奇しくもSDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」です)と協力し、共に旅を続ける必要があります。私たちが次の大きな問題である地球と人類の持続可能性に取り組むとき、この有志の連合が、新しいパンデミック後の世界で真のリーダーシップを示す必要があります。より良い復興を遂げより公正で平等な社会を創り出すという役割を私たちは果たすことが可能ですし果たすべきです。人が平等であるだけでなく、自然も平等な社会、そこでは予防が保護よりも重要であり、保険業界は社会的利益があると見られます。
今は、社会を再構築する上で、協同組合/相互扶助の保険組織として、私たちのセクターの価値観のレンズを通して力を蓄え自らの役割を果たすことができる瞬間です。機会はそこにあり、準備はできています。違いを生むために取り組む勇気だけが必要です。探検家アーネスト・シャクルトンの言葉によれば、「楽観主義は真の道徳的勇気」です。楽観性と勇気、政治とビジネスのリーダー達が「ニューノーマル」を形作る重要な決定を下すとき、これらの資質は今まで以上に求められています。そして、ICMIF会員団体は、その意見を聞いてもらい、その行動を見てもらうという点で重要です。