ICMIF協賛会員ピーク・リー(Peak Reinsurance Company Limited)の最高経営責任者(CEO)であるフランツ・ヨーゼフ・ハーン(Franz Josef Hahn)氏は、最近行われたAMベストのインタビューで、保険業界は政府や学究の世界と協力して地球温暖化への迅速な対応を行うべきであると述べました。
ピーク・リーは最近、再保険会社として初めて香港でハイブリッド証券を公募発行しました。ハーン氏によると、この2億5,000万米ドル(260億円)の発行は、世界中の成長機会に牽引されて非常に人気化しました。「しかし、それは私たちが望むところに会社を発展させる方法の一つの代表的なステップにすぎません」と、ハーン氏は別のICMIF協賛会員であるAMベストのベスト・レビュー(Best’s Review)との最近のインタビューの中で語りました。
以下は、そのインタビューの編集後の記録であり、両組織の許可を得て転載されています。
ハイブリッド証券について、また発行代金をどのように使用する予定かを教えてください。
これは、会社の歴史において初の資本調達となります。公募のハイブリッド証券で香港証券取引所に上場されています。活発に取引されており非常に良好な状況です。ハイブリッドの仕組み(基本的に資本ストラクチャー)に基づいたのは、アジアのみならず世界中のマーケットで見られる成長機会が動機となっています。
株主基盤の多様化は常に大事です。さまざまな資本が入ってくることは同じく非常に大歓迎です。
ローンチ時点で募集額の4倍の申し込みがありましたが、多くの海外投資家にこのハイブリッド証券の購入についてご納得いただけたことは喜ばしいことです。
これは、2017年以降においてアジアで初となる米ドル・円・ユーロのG3通貨建てハイブリッド証券の発行であり、香港の金融サービス組織による初めての発行です。これは非常にユニークであり素晴らしいことですが、それは私たちが望むところに会社を発展させる方法の一つの代表的なステップにすぎません。
アジアで保険リンク証券(ILS)が伸びる可能性はいかがですか?
保険リンク証券(ILS)はさまざまな分野で役に立ちます。今年は、ライオンロック(ライオンロックIとII)と呼ばれるサイドカー取引を2本発行しましたが、これは7,700万ドル(80億800万円)に増額となりました。これには強い引き合いがあります。
それは私たちの自然災害の引受の一部をサポートしており、資本の投資家に大いに分散化されたポートフォリオを提供しています。
また、バミューダのLuteceというファンドにも投資しました。大きなチャンスが訪れることを期待して、その名称をピーク・キャピタル(Peak Capital)に変更しました。
自然災害エクスポージャーのアグリゲート・カバーは、特に中国とインドで非常に力強く成長しており、プロパティー災害ビジネスの面で非常に急速に拡大しています。これは、アジア太平洋地域の中心に位置するピーク・リーにとって大きなチャンスであると考えています。
一方で、アジアの資本、特に日本、韓国、中国の北アジアの資本の、特にILSに関連するオルタナティブ投資への関心が高まっています。双方の事象は相まっており、私たちはその活用に強い関心を抱いています。
続いて、ILSストラクチャーが役に立つ可能性のあるその他のリスクがあります。インドにおける農業のアグリゲート・カバーは非常に急速に成長しています。政府によるサポートがありますが、リスクをカバーしてくれる資本を探す必要があります。ILSはその可能性の一つです。
さまざまなリスクを適切に計算してモデル化するためには、責任者であるイアン・レイノルズ(Iain Reynolds)を中心とした一流の分析チームがいなければ何一つできないでしょう。なぜならば、私たちが国際資本市場にもたらすリスクの一部は、資本市場にとってまったく新しいものだからです。それは私たちがもたらす分散性を物語っています。
それは、アジアを拠点とする国際的な再保険会社である私たちにとって良い機会となります。
香港に拠点を置くことの利点と、アジア太平洋地域で現在成長が見られる場所について少し教えてください。
短期的には、おそらくアジアと中国で始まった新型コロナウィルスに注目します。中国はそれを克服するだけの手段を持っており、アジアの他の地域も同様でした。この地域では今世紀に入りすでに感染症の流行が何回かあったことがその理由だと思います。
感染症については実質的な心構えができています。インフルエンザの時期はいつでも、冬がある地域では大勢の人が非常に自然にマスクを着用しています。そのもたらすメリットで、3月・4月の短期間の変動を経て経済は回復を見せました。経済は成長軌道に戻っています。
香港はアジア太平洋の中心にあります。ここからは、比較的短時間でアジア太平洋地域のどこでも行くことができます。ASEANと中国の間の新たな貿易協定は非常に興奮させられるもので、この地域が保険・再保険業界に提供する成長の勢いを示しています。
そうは言いつつも、新興アジアでは保険の普及率の低さが依然として大きな問題であることはよく認識しています。それは、需要ならびに供給の低迷に関係するだけでなく、すでに世界人口の60%を占めるアジア太平洋の中流階級社会の成長の勢いにも影響しています。保険および再保険業界は、ゆくゆく保障を広げていくための努力を行なう必要があります。基本的に私たちは目標に追い付いていません。
新型コロナウィルスはアジア太平洋市場にどのような影響を与えましたか?
たとえば、ヨーロッパと比較するとごくわずかです。前に述べたように、これは5回目の感染症流行です。そして、直近の流行は新型コロナウィルスであり、パンデミックに至りました。ここアジアでは、2002年のSARSで始まりました。これは社会に大きな影響を与え、非常に深い傷跡を残しました。SARSの後に多くの訴訟が提起されました。
今では、元受保険契約と再保険契約についての文言は非常に明確であるため、新型コロナウィルスで私たちは驚きませんでした。アジアは準備が整っているという利点があり、成長への回帰、従来のアジェンダへの復帰、そしてその完遂に対しより集中することが可能です。
その中心に貿易協定があり、これは私たちがこれまでに見た中で最大のものです。これは絶好の機会であり、これまでにないほど大陸全体を緊密に結び付けることができます。
ピーク・リーに関して影響は限定的でした。私たちがオフィスを閉鎖することはありませんでした。新型コロナウィルスのさまざまな波が香港に押し寄せたとき、私たちは在宅勤務するかどうかの決定をスタッフと管理職に任せました。私たちはそのためのテクノロジーを持っています。
バミューダの会社の買収さえも行ない、業務を停止することはありませんでした。第3波が香港を襲う前に、私たちのオフィス出勤率は95%~98%に戻っていました。現在、私たちは再び同じ水準まで戻っています。
クライアントが大きな打撃を受けて手続きが遅れない限り、私たちの方でそれを遅らせることはありませんでした。
世界の他の地域の保険市場はアジア太平洋地域の感染症流行への過去の対処に何を学べるでしょう?
それは契約文言だと思います。つまりひな形です。現在ではさまざまなひな形があり、多様な除外条項があります。SARSは他の誰よりも強く私たちを襲ってきたので、その時の私たちの教訓から、今やすでにヨーロッパ市場そして世界市場は学びつつあると思います。
一般的なコメントですが、その他の部分としては、この地域の敏捷性があげられます。この地域はかなりの程度若い社会と言えます。彼らは前向きです。彼らは否定的ではありません。彼らは悲観的ではありません。彼らは楽観的です。やる気があります。香港にピーク・リーを設立したのはそのためです。なぜならば、この地にはその種の「意欲的な」態度があり、人びとは自然に起業家精神にあふれ、課題を克服しようとしているからです。
ヨーロッパから自宅に戻ると、もう少しお互いに学び合ったほうがいいと思うことがあります。
今日の市場のどこに課題があると見ていますか?
長期的に見て、最大の課題は地球温暖化です。残念ながら新型コロナウィルスが多くの注目をさらっています。この地球温暖化の進む場所で何が起こっているのか、なぜ多様性がかつてないほど縮小しているのかを考える必要があります。それはすでに非常に劇的であります。
保険業界は、時間の経過とともにその矢面に立たされています。政治一般や学究の世界と保険の統合は絶対に必要だと思います。確かに、私たちの世代、私の世代はそのようなことに積極的ではなく、多分長い間すべてに否定的であったことを誰しも知っていますが、今こそスタートを切るべき時です。それが最大の問題です。
もう1つの課題は、テクノロジーの変化を受け入れることです。テクノロジーがいかに役立つかを組織が理解した瞬間に、これは自動的に行われると確信しています。今、私たちはビデオ通話で話しています。必要だとわかっているので使用しているのです。
たとえば保険会社、ブローカー、再保険業者の間のビジネスプロセスの自動化などについて、テクノロジーが必要であることを認識し理解した瞬間、私たちはテクノロジーの採用を開始します。それほど難しいことではありません。
最大の課題は依然として地球温暖化です。それは、この地球上で人類と全ての生物が生きていくためです。
保険業界が地球温暖化についてもっとできることはありますか?
もちろんです。ESG(環境、社会、ガバナンス)戦略の展開など、保険・再保険業界は多くを実行しています。もっとその採用を早めるべきだと思います。もっと勇気を出すべきです。いま私は若い企業を代表していろいろ喋っていますが、歴史ある会社であっても、「10年以内に石炭の使用をやめます」や「10年以内に現代の奴隷制をなくします」と語るよりも、はるかに早期にESG目標を採用する必要があるのです。
私たちはそのことについてもっと精力的になる必要があると思います。業界にはシンクタンクがたくさんあります。おそらく、物事を真に前進させるためには、グローバルな保険業界のベースで1つの専門シンクタンクを持つ必要があります。
フランツ・ヨーゼフ・ハーン氏は、AMベストTVのメグ・グリーン(Meg Green)氏(シニア・アソシエイト・エディター)との他のインタビューの中で、ヨーロッパの保険会社はパンデミックのリスクに関連する保険契約の文言について、アジア太平洋地域の保険会社からどのように助言を求めることができるかについて語っています。AMベストTVのこのエピソードはこちらでご覧ください。
また、グリーン氏には、AMベストの許しを得てICMIF会員のために上記のインタビューをまとめ、ここに転載をいただきました。
※ 文中の金額は1米ドル=104円で換算