再保険部門内外の影響によって引き起こされる非常に複雑なリスク環境は、ハード化する市場の進化するダイナミクスと相まって、再保険部門内で大きな変動を生み出していますが、(再)保険会社の信頼を高める要素もたくさんあります。世界有数のリスクと再保険の専門家集団である、ガイ・カーペンター(Guy Carpenter)が主催した仮想メディア ブリーフィング「可能性の実現(Materialising possibilities)」で、損害保険、傷害保険、再保険、特殊保険の各市場の状況や資本移動、保険リンク証券の成長、サイバーリスクの進化などについて、パネリストが語りました。
ガイ・カーペンターのディーン・クリスラ(Dean Klisura) 社長兼 CEO は、このブリーフィングの冒頭で次のように述べています。「2022年は当社の顧客にとって非常に厳しい年であり、2023年月の再保険契約更改も市場の主要分野において厳しいものになると予想しています。」
クリスラ社長は、現在の市場の複雑さを引き起こしている要因となっている、マクロ経済状況、コアインフレの上昇、世界的な巨大災害の頻度と深刻度の増加、地政学的な紛争、および特定種目における引受けキャパシティの縮小について触れました。
しかし、クリシュラ氏は次のようにも述べています。「このような状況にもかかわらず、私たちは、市場をリードするデータおよび分析プラットフォームを活用し、顧客のポートフォリオとこれらに関連するボラティリティの管理に役立つツールを構築します。」
ガイ・カーペンターのデビッド・プリーブ(David Priebe)会長は、市況環境をさらに評価し、インフレ、歴史的に低い消費者信頼感、GDP の減速など、いくつかのマクロ経済的な課題の影響を指摘しました。しかし、これらの逆風にもかかわらず、市場は現在「19四半期連続で堅調なサイクル」にあり、新たな課題に対処するための「より強固な基盤」を築いていると述べました。
「保険料率の継続的な引き上げにより、収益が改善されました。リスクプロファイルは、規律ある価格設定と引受によって再構築されています。環境は依然として不確実で常に変化しているため、損害の傾向とその選択は頻繁に見直されています。保険会社も再保険会社も同様に、引き受ける事業について戦略的であり、引受け前に対応するリスクを慎重に評価しています。」と述べています。
こうした背景から、プリーベ会長は次のように付け加えています。「この不確実な環境の下で、リスクに対する認識と下振れ防止へのニーズが業界全体に浸透しているため、再保険への需要は引き続き強いと思われます。」全体として、これはここ数年で最も困難で複雑な市場の 1 つであり、1 月 1 日は、年央に達成された様々な更新結果に続く可能性があります。」
ガイ・カーペンターのグローバル・ヘッド・オブ・ディストリビューションのララ・モワリー(Lara Mowery)氏は、損害保険部門における大きな動きについて、2021年と比較して市場が動いていると説明しました。モワリー氏は次のように述べています。 「米国におけるROL(Rate-on-Line、再保険料率)は15%近く上昇し、アジア太平洋地区におけるROLも9.5%上昇しました。主要地域における年央までのこれらの変化は、世界の巨大災害ROLに重大な影響を与え、1月1日の更改は約11%から約15%の上昇と見込まれます。」
1 月 1 日の更新に向けて、モワリー氏は、「インフレと高まる損失予想」の両方がすべての交渉において最前線に立つでしょう。その結果、リスク許容度は変化し続け、需要は増加すると予想されます。過去には、業界がある年に 3% から 5% の伸びに対して無理なく対応できるように柔軟に対応できたかもしれませんが、2023 年の損害保険会社の要求は、その数倍になるでしょう。」と述べましました。
モワリー氏は、「多くの再保険会社が損害ポートフォリオの拡大を計画しています。」「価格と構造の変化が既存の部門の懸念に対処するため、今こそ市場に乗り出すべき時です。」と前向きな意見を述べました。
ガイ・カーペンターのグローバル カジュアルティ担当マネジング ディレクターであるキャロリン・モーリー(Carolyn Morley) 氏は、損害部門も社会的・市場的な課題に直面しており、個々のアカウントのダイナミクスがより重視されるようになっていると述べています。「再保険会社は、外部の経済的・政治的要因と、その結果生じるショートテール・ロングテールの両方のボラティリティの高まりにますます関心を寄せています。」
今後のこれらの要因について、モーリー氏は次のように述べています。「1月1日の更改に向けて、金利環境、ロシア・ウクライナ紛争、インフレ不況懸念が引き続き更改における議論の最前線にあるため、戦略的な交渉が引き続き大きなウェイトを占めると予想されます。損害保険の引受けは、ラインや資本要件によって多少の価格圧力が予想されるものの、全体としては十分な水準を保つと思われます。限度額管理、ポートフォリオの動き、契約内容の変更を積極的に強調する出再者は、更改を成功させる強い立場に立つことができます。」
ガイ・カーペンターのグローバル・スペシャリティーズ最高経営責任者(CEO)であるジェームス・ボイス(James Boyce)氏は、レトロ市場(再保険者が出再者として購入する再保険)の動向を評価し、「2017年以来の巨大災害による損失、気候に関連する懸念の高まり、インフレ、モデリングの課題を反映して、1月1日更改の損害レトロ市場におけるハード化圧力が2022年も続いている。」と述べました。
契約更改を前にし、同氏は次のように述べています。「2022年のリスク減少にもかかわらず、アグリゲートに対して付加が少ないリスクに対してはレトロの引受けはやや制限されたままとなるでしょう。中位および上位のレトロレイヤーは、概ね良好なパフォーマンスを示しており、引受け資本の投入を検討しているレトロ市場にとっては、引き続き魅力的であると考えられます。再々保険の買い手は、基礎となる事業の条件改善に支えられて、支出と保有レベルのバランスを探るでしょう。」
また、ボイス氏はスペシャリティ・クラスに関して、「キャパシティは引き続き潤沢ですが、利用可能なカバレッジに関して課題が続くため、市場との早期の交渉開始が重要になります。」と付け加えました。「
ガイ・カーペンター証券のシブ・クマール(Shiv Kumar)社長は、資本市場の動向に注目し、回復力のある市場について説明しました。ガイ・カーペンターと AM ベストは、2022 年末のスペシャリティ再保険市場の総資本を約 5,300 億米ドル(71兆2,108億円)と推定しています。
損害セクターの動向について、彼は次のように述べています。
「キャット・ボンド市場の成長という点では、今年は発行に関して「勢いよく」始まったものの、第 2 四半期にはキャパシティーが制約されました。最初の 7 か月間に 33 件のキャットボンドが発行され、1案件当たりの平均発行規模は 1 億 4,400 万米ドル(193億4,784万円)でした。出再者の関心は広がり続けており、7 つの保険会社が今年初めてキャットボンド市場を利用しました。再保険市場におけるリスク受け規模(キャパシティ)が依然として制限されているためキャットボンドに関する問い合わせが増加しており、実損填補型とインデックス型の両方の発行が今後盛んになると予想しています。」
サイバー市場に焦点を移し、ガイ・カーペンターのマネジング ディレクター兼グローバル共同責任者であるアンソニー・コルドニエ( Anthony Cordonnier) 氏は、市場が指数関数的な保険料の成長を伴う「近年の重大な変化」をどのように経験したかを強調し、次のように述べています。「 2021 年末のサイバー 保険料は全世界で 100 億米ドル(1兆3,436億円)となり、この数字は 2025 年までに 200 億米ドル(2兆6,872億円)に達すると予想されています。」
この成熟した市場を支え、その持続性を確保するには、サイバー解析とリスク分析ツールの進歩が必要になる、と コルドニエ 氏は述べています。「この分野では、予測分析を活用してリスクコントロールの効率性を特定することが出来ます。企業はより多くの情報に基づいてサイバーセキュリティ投資の決定を下すことができ、サイバーコントロールとポートフォリオのパフォーマンスを関連付けることえを支援します。」
ガイ・カーペンターのマネジング ディレクター兼グローバル共同責任者であるエリカ・デービス(Erica Davis)氏 は、現在の市場の拡大により再保険のキャパシティに制約が生じているとし付、次のように述べています。「再保険市場の拡大に伴い、サイバー保険会社の再保険キャパシティの圧迫は今後も続くでしょう。」
複雑で絡み合った市場環境を振り返り、プリーベ会長は次のように述べています。「これの状況はまさに、長期的な視点に目を向けながら、短期的な対応策を提供するために、思慮深く、集団的で、データに基づいた長期的戦略が必要であることを意味します。」
※ 文中の金額は1米ドル=134.36円で換算
ICMIFサイトの英語ニュース記事(以下にリンクを表示)を許可を得て翻訳・転載しています。
掲載日付2022.9.12