サナサ( Sanasa Insurance Company)は、作物や財産を象に踏み荒らされることが多い農家に革新的な保険を提供する試験プログラムに参加しています。象は農場に迷い込み、作物や植生に大きな損害を与える可能性があり、干ばつ状態を悪化させることもあります.
人間と野生生物の衝突 (HWC:Human-wildlife conflict) は、世界の多くの地域、特に保護地域周辺の貧しい農家に大きな経済的・人的負担をかけており、象はアフリカとアジアの両方で HWC の主な原因になっています。彼らは農作物を踏み荒らしたり食べたり、物を壊し、時には人に怪我をさせたり、死に至しめることさえあります。その結果、地元住民が防衛または復讐のために象を殺したり、密猟者による違法な殺害を支援するケースも少なくありません。
保険契約は、農家を助け、動物を報復攻撃から救うための金銭的報酬を提供します。この試みはケニアでも行われています。これは、英国政府のダーウィン・イニシアチブ(Darwin Initiative)から資金提供を受けて、スリランカ政策研究所 (IPS、Institute of Policy Studies of Sri Lanka)、AB コンサルタント ((AB Consultants、ケニア)、国際環境開発研究所(IIED) によって開発されました。
この制度は、各国で最低 1,000 人の農家と契約することを目標としています。スリランカでは、サナサが各家庭に保険を提供します。農家は、作物の損害、入院、穀物貯蔵をカバーするために、年間約 16 米ドル(2,114円)相当を支払うことになります。スリランカは深刻な金融危機からの立ち直りを図っているため、保険料は農家収入の 2% 未満と、手頃な価格になるように設計されています。
スリランカ中部のクラネガラにあるダラダガマ村の農民で、2 人の子供の母親であるスシラ・アベシンゲ(Susila Abesysinghe)さんは、次のように述べています。「マンゴやジャックフルーツの季節になると、象がどんどん村に入ってきて、すべてを壊してしまいます…私たちの生活、財産、農場をカバーする保険ができれれば幸いです…。」
2022 年 12 月に開催された COP15 生物多様性交渉(COP15 biodiversity talks)では、人間と野生生物の平和的共存の実現が議題の上位にありました。この協議では、地球上の動植物や生態系の損失と破壊を食い止め、元に戻す新しい世界協定を策定することを目的としていました。新しい枠組みの初期草案には、2030 年までに世界の陸と海の 30% を保全するという目標が含まれていました。
IIED のチーフ・エコノミスト、ポール・スティール(Paul Steele)氏は次のように述べています。「野生動物が生息する地域に人間が入り込み、動物の生活空間や移動経路を侵害することで、人と動物の間で紛争が生じます。野生動物の被害は、人と動物の両方の命を奪うだけでなく、世界の多くの地域の貧しい農家に大きな経済的打撃を与えています。この保険制度は、野生生物を保護し、農村の農家の生活を改善する方法を提供します。」
象はしばしば農村部で小規模農家と場所を争っており、作物が踏みつけられたり食べられたりしています。 2018 年にはスリランカの野生生物保護局が記録した人間と象の衝突で、96 人が死亡し、319 頭の象が殺されました。物的損害は 730 件記録されました。
毎年多くの象が自然死していますが、農家が作物や家屋を守ろうと奮闘する中で、多くの象が撃たれたり、感電したり、爆殺されています。人々、特に子供たちは、襲撃を恐れて日没後は家にいることが多い状況です。
ケニアでは、試験的な保険制度として、象だけでなく、ライオン、ハイエナ、ヒョウ、チーターなど、他の野生動物も対象となる予定です。ケニア野生生物局(Kenya Wildlife Service)の記録によると、2016 年 (通年データがある最後の 年) に 137 人が死亡し、1,000人以上が負傷しました。ヘビ、ゾウ、カバが上位 3 種でした。同年、動物による農作物や財産の被害は4,500 件以上発生し、その中で最も多くの損害と破壊を引き起こしたのは象でした。
両国では政府が運営する保険制度が試行されてきましたが、保険金の支払いが遅く、支援を必要としているすべての人に常に届くとは限りませんでした。既存の民間保険会社で、保険契約を管理・請求確認を迅速に行なうことが望まれます。
また、IIED はマレーシアの保険数理コンサルティング会社や環境 NGO と協力してこの制度を立ち上げようとしており、人間と野生生物の衝突が増加している他の国でも、民間保険の活用をさらに拡大することに関心が集まっています。
AB コンサルタンツは、ケニアのナイロビに本拠を置くコンサルティング会社で、貧困を緩和するツールとして包括保険を推進するために 2 人の女性によって設立されました。AB コンサルタンツのチームには、ICMIF 会員団体の CIC Insurance Group (ケニア) 会長で、ICMIF 財団の理事でもあるネルソン・クリア( Nelson Kuria)博士がいます。
スリランカ政策研究所は、政策志向の経済研究を通じて社会経済の発展に貢献することを目的にした独立シンクタンクです。
ダーウィン・イニシアチブは英国政府の助成金制度で、世界各地の地域に根ざしたプロジェクトを通じて、生物多様性と自然環境保護を支援しています。
この記事は、以前に iied.org で公開されたプレス リリースに基づいています。
※ 文中の金額は1米ドル=132.11円で換算
ICMIFサイトの英語ニュース記事(以下にリンクを表示)を許可を得て翻訳・転載しています。
掲載日付2023.1.10